和の香りJAPANESE SCENT
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日本では外国文化を受け入れる体質が強いためか、食に関してもあらゆる食文化、食材が入ってきています。
そのために豊かな食文化風土が生まれて互いに刺激しあっているともいえます。
その一方、日本固有のものに対して接する機会が少なくなってきているようにも思え、憧憬が希薄であるとも言えます。
外国に行くといかに日本のことを知らなかったかと思い知らされることが多いと思います。
日本に生まれたからには日本の食・和の香りを知り、多く触れてほしい。そういった願いを込めて、日本固有の和の食の香りについて述べていきます。
PRODUCTIONユズ、スダチ、カボス
酸味が強く、生食にむかない柑橘類を「香酸柑橘(こうさんかんきつ)」といいます。香り高いユズ(柚子)、スダチ(酢橘)、カボス(香母酢)は、これに入ります。
ユズの原産地は、中国の長江上流域といわれています。日本には奈良時代前後に渡来したとされています。スダチは、ユズの近縁種として300年前に徳島で作出されました。カボスは、ユズの近縁で大分県にふるくから分布しています。農林水産省の統計を見てみますと、ユズの平成19年の出荷量が18,845トン、スダチが6,350トン、カボスが4,827トンとなっています。20年前と比較すると、ユズが出荷量で1.7倍の伸びを示し、スダチ、カボスは横ばいといえます。ただし、ユズは1個当たり100~120g、スダチは30~40g、カボスは100~150gあるといわれていますので、ユズとスダチの生産個数はおなじぐらいかもしれません。
伝統食、伝統文化・風習
ポン酢
柑橘類の果汁をポン酢と呼んでいます。それはオランダ語の"pons"が「柑橘類の果汁」を意味するところから来たとする説があります。今まで見てきたとおりこれらの酸味の主成分はクエン酸です。
それは、醸造酢が酢酸を主成分としていることの違いにより利用の仕方が異なります。鍋には、酢酸が揮発して刺激が強いため好まれません。逆に、柑橘果汁酢はまろやかな酸味を引き出します。淡白な味の日本料理には最適です。
その他
- 柚子胡椒、酢橘胡椒、香母酢胡椒
- 柚子味噌、酢橘味噌、香母酢味噌
- 柚餅子(ゆべし)
- 柚子茶
- 柚子湯、酢橘湯、香母酢湯
ユズ
ユズの特徴
青ユズと出荷される未熟のユズは、ユズ本来の香りがあり、果皮が緑で糖度が低く酸度が高い。スダチ、カボスと違い、青ユズ、黄ユズはいずれの時期でも有効利用できるのがユズの特徴である。
また、果皮、果汁ともに栄養価が高く有効利用されている。ビタミンCやミネラルが豊富。
ユズの香気成分
ユズ精油中では、モノテルペン炭化水素、ジテルペン炭化水素合わせると92%ほどを占めます。特に多いのがd-リモネンで約60%を占めています。しかしながら、ゆずを特徴的にあらわした香気とはいえません。
沢村はその著「ユズの香り(フレグランスジャーナル社)」に、最近の特徴的芳香成分について概説しています。
2006年「大久保ら」による・・・(6S)-Methyloctanal、(8S)-Methyldecanal
(第50回「香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会(略称TEAC)」において発表されたもの。
研究者らによれば、(6S)-Methyloctanalの香気は、「フレッシュなグリーン感と甘いシトラス感をもった風味。」であり、(8S)-Methyldecanalは、「フレッシュなグリーン感と苦味を感じさせる。ユズを思わせる風味。」と香味評価している。)
『この項では、TEACで発表された報告を数多く引用しています。最新の研究を知ることができるわけです。
TEACについては、日本化学会 の討論会・講演会情報」でその年の開催内容について知ることができます。』
2007年「宮里ら」による・・・・trans-4,5-epoxy-2E-decenal
(第51回TEACにおいて発表されたもの。その香気は、草様・金属様・アルベド<果皮内壁の白い部分>様と記し、ユズ香に果肉・果汁感を付与すると評しています。)
また、テレビで有名になった『ユズノン』の研究(2009年、宮沢ら)があります。ユズノンとは、(6Z,8E)-undeca-6,8,10-trien-3-oneのことです。ユズ、スダチの果皮に確認されており両者の果実が持つ爽やかさの一因といえます。ユズノンについてくわしく知りたい方は、こちらを参照ください。
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jf803257x
スダチ
スダチの主な生産地
徳島県がダントツの収穫量(7294トン/平成19年)を上げています。
スダチの特徴
スダチの果実は小振りで、25~50gほどです。未熟の状態で出荷されます。その理由は果汁中の酸(クエン酸が主成分)含量が多く、果皮の香りが高いからです。スダチは特有の香りが魅力です。また、スダチチン、デメトキシスダチチンといったスダチ固有のフラボノイドを含み、今研究対象として注目を浴びています。
スダチの香気成分
- 1.果汁
-
甘い香りに寄与している成分として、楊・杉沢はNonanal(C9-Aldehyde)、Decanal(C10-Aldehyde)、Octyl acetate、Undecanal(C11-Aldehyde)、Nonyl acetate、Dodecanal(C12-Aldehyde)、Decyl acetateを上げている。
一方、最近の研究(2009)では、富山らはwine lactone、4,5-epoxy-(2E)-decenal、ethyl butyrate、cis-rose oxideなどを寄与成分として報告している。 - 2.果皮
- また、富山らは、果皮に関して、Linalool、Yuzunone、4,5-epoxy-(2E)-decenal、wine lactoneが寄与しているとしている。
カボス
カボスの主な生産地
大分県がダントツの収穫量(5019トン/平成19年)を誇っています。
大分県カボス振興協議会
カボスの特徴
カボスも未熟の状態で出荷されます。クエン酸含量は同量のレモンにくらべ約2倍含まれています。食酢などに比べるとまろやかな酸味といえます。ミネラル由来の塩味・苦味・甘味が相対的に高いことも独特の風味を醸し出しているのかもしれません。
カボスの香気成分
Tu、Onishiらは2002年にカボスの香気寄与成分を(R)-(+)-citronellalと報告しています。その香調は、フルーティでフレッシュでカボス様と説明しています。
富山らは2010年のTEACの発表で、果皮の主要な香気成分は、limonene;75.5%、myrcene;17.7%、γ-terpinene;2.9%、α-pinene;0.7%などが占め、含酸素画分における香気寄与成分をlinalool、(2E)-4,5-epoxy-2-decenal、octanal、(4Z)-decenal、β-citronellol、geraniol、wine lactone、cis-rose oxideなどとしている。
一方、果汁においては、limonene;71.9%、myrcene;19.0%、γ-terpinene;4.7%、β-caryophyllene;0.9%、α-pinene;0.6%を占め、含酸素画分における香気寄与成分をwine lactone、linalool、eugenol、(2E)-4,5-epoxy-2-decenal、geraniolなどとしている。
PRODUCTIONサンショウ、クロモジ、ホウバ
ここの三つには関連性はありません。日本料理における超脇役たちとでも言っておきましょうか。
サンショウはミカン科の落葉低木ということで、引きつづきご縁があるようです。果実や葉にさわやかな強い芳香と辛味成分を有しています。若葉(葉サンショウ)や未熟な果実(青サンショウ)は刺身のツマや料理に彩を添え日本料理によくマッチします。成熟した果実は粉末にして「粉サンショウ」として食用にされます。サンショウの生産出荷の実態が農林水産省のHPを見るとわかります。平成19年産では611トンを示し年々増加する傾向にあります。主産地は和歌山県(476トン)で、サンショウがミカン科だからなのでしょうか。
一方、クロモジはクスノキ科の雌雄異株の落葉低木で独特の芳香があることが知られています。クスノキ科の植物にはクスノキ、ニッケイ、ゲッケイジュなど芳香を持つものが多くあります。クロモジの精油採取は地域的に行われているだけで、統計で語られるほどではないようです。烏樟と呼ばれる漢方薬はクロモジの樹皮です。有名な薬酒にも使用されていることはご存知の方も多いのではないでしょうか。
ホウバ(朴葉;ホオバ?)は、いわずと知れたホウノキ(朴の木)の葉です。ホウノキはモクレン科の落葉高木で、花には甘い芳香があります。ホウバにも香りがあります。ホウバは大きな葉で厚さもあり、食品を包むものとして利用されてきました。朴葉寿司、ホウバ餅(柏餅)などがその例です。
伝統食、伝統文化・風習
【山椒】
粉山椒、七味唐辛子、ちりめん山椒、山椒塩、佃煮、漢方(山椒、蜀椒)、すりこぎ
【黒文字】
楊枝、黒文字茶、精油、黒文字垣(垣根)、門松材料、漢方(烏樟)
【朴葉】
朴葉味噌、朴葉寿司、朴葉餅、祭儀の酒器(万葉集で)、漢方(厚朴)
サンショウ
サンショウの主な生産地
生産量が多いのは和歌山県でダントツの生産量を上げ、続いて京都府、高知県、岐阜県が、平成19年に収穫量を20トン以上上げています。
和歌山県有田川町(近中四農研ニュース第27号より)
サンショウの特徴
葉には極上の芳香があり、実にはさらにピリッとした辛味が加わります。若芽、葉、花、実、樹皮などほとんどの部分が香辛料として使われます。
四川料理によく使われる山椒ですが、「麻痺」の「麻」には『ピリピリと痺れる』という意味があるそうです。山椒の辛味は、口中が痺れるような独特の辛さという点では私たち日本人が思っている辛味とは少し異質なものと言えましょう。山椒の辛味成分の正体はサンショオール(sanshool)という不飽和脂肪酸アミドです。
大脳を刺激して、内臓器官の働きを活発にする作用があるとされています。漢方の原料として、冷えによる腹痛・膨満感を治療する薬方に配合されます。
サンショウの香気成分
kojimaらは、山椒若葉の香気寄与成分を(Z)-3-Hexenal、(Z)-3-Hexenol、Linalool、Citronellol、2-Tridecanone、Geraniolと報告している。飯島らが産地別の山椒果実の香気成分を分析した結果、geraniol関連成分が多いもの(和歌山産、奈良産)とcitronellol関連成分が多いもの(岐阜産、韓国産)に分類され、中国山椒は他の産地の山椒とは組成が異なるとしている。
Jiang、久保田は、青山椒(未成熟な果実)のグリーン感にcitronellalが、スウィート感に桂皮酸メチルが寄与しているとしている。
クロモジ
クロモジの分布
産地と特定できる場所が容易に見出せないため、分布について述べます。
本州、四国、九州などの丘陵帯から低山帯で、疎林の斜面に分布。
また、伊豆では採油の歴史があります。
クロモジの特徴
樹皮にできる黒い斑点が文字にも見えたことから、黒文字(クロモジ)とつけられました。
烏樟というクロモジの幹と枝から取れる生薬は、鎮静催眠(高ぶった神経を鎮めよく眠れるようにする作用)、去痰・鎮咳の作用があります。根皮(釣樟)は芳香性健胃作用があります。
昔は枝葉を蒸留して精油(黒文字油)を採っていたそうですが現在はあまり使われていません。
クロモジの香気成分
古前らによる「葉」の精油分析では、1,8-cineolが30.6%、linaloolが28.6%、以下α-pinene、limonene、γ-terpineneとなっています。一方、上川・赤壁による「枝」の精油分析では、linaloolが64%を占めて最も多く、次いでgeraniolが8%、(E)-dihydrocarvoneが4%、geranyl acetateが4%、(Z)-linalool oxideが3%含まれていたとしています。
クロモジに魅せられた人たち
ホウバ
ホウノキの分布
ホオノキはモクレン科の落葉高木で、花には甘い芳香があります。
日本固有種で日本各地の山野に自生しています。
温帯から暖帯上部に分布しています。
ホウバの特徴
葉は楕円状の卵の形をしています。長さは35cmから45cmにもなります。幅が12cmから20cmあります。日本産木本種中で最大の葉のひとつです。生葉は水をはじく性質があり、花ほどでないものの香りがあります。
また、葉にはhonokiol、obovatolという成分が見出されています。前者は抗腫瘍作用を示し、後者はさまざまな活性を持つといわれている。
ホオバの香気成分
中島らによれば、主成分は(E)-β-caryophylleneで、(3Z)-hexanolがベースノートとして香気に関与し、linalool、geraniol、terpinolene、borneolが香気を特徴づけているとしている。
PRODUCTIONシソ、ウメボシ、エゴマ
シソを取り上げたのは、後で触れますがペリラアルデヒドという特徴的な香気成分があるためです。「大葉」と呼ばれる青ジソが一般的です。シソ科シソ属の1年草。抗ヒスタミン成分が多く含まれています。アトピー性皮膚炎に効果があることが確認されています。収穫量は平成18年では、施設、露地あわせて11,081t。都道府県別では愛知県が同じく3,674t、茨城県が1074t、以下、愛媛県(826t)、静岡県(595t)、大分県(560t)、福島県(525t)と続きます。
「ウメボシ」、日本人にこれほどなじみのあるものはないでしょう。ウメボシは、梅果実を塩漬けにした後、日干しにしたもので、クエン酸含量が多く酸味が非常に強い漬物です。ウメボシが赤くなるのは赤ジソのアントシアニンが、梅の酸味と化学反応を起こして鮮やかな赤み色に染まるためです。生産量は、食品産業総合動態調査資料によると平成20年で、梅干・梅漬あわせた数値で46,127tでした。
エゴマ(荏胡麻)もシソ科シソ属の1年草ですが、シソとは全く異なる香気を有しています。名前からゴマと間違いそうですが、ゴマ並みに含油量が多く、種子から荏油(エノユ)を得て、もっぱら灯油として利用されていました。江戸期になると菜種油などにとってかわられました。近年、アルファ・リノレン酸含量が多い油として脚光を浴びつつあります。シソ油と称して販売されている油がありますがエゴマ油がシソ油という名で扱われていることが多いようです。
伝統食、伝統文化・風習
【紫蘇】
七味唐辛子、紫蘇焼酎、紫蘇ドリンク、福神漬け、紫蘇巻き、青紫蘇ドレッシング、紫蘇酢
【梅干】
干し梅(菓子)、梅干あんぱん
【荏胡麻】
エゴマ油、じゅうねんうどん、じゅうねん味噌、じゅうねん餅
シソ
青ジソの産地
愛知県は、大葉の生産が全国一を誇っています。
愛・地産アラカルト
シソの特徴
「つま」として日本料理を引き立てる名バイプレーヤーです。青ジソ(大葉)や赤ジソは何といっても色鮮やかです。まさに眼で食べる日本食の真骨頂といえるかもしれません。赤ジソは、梅干などの色づけに使うほか、葉を乾燥させて香辛料の七味唐辛子に配合されることもあります。
青ジソは魚の臭みを抑える効果があり、魚の紫蘇巻きなどによく利用されます。また、防腐・殺菌効果もあり、刺身のつまとしてよく使用されます。その爽やかな香りから、ドレッシングやドリンクに応用されています。
シソの香気成分
石塚らによれば、青ジソ精油の重要な香気成分として16種をあげている。perillaldehyde、linalool、shisoolが改めて確認されたとし、さらに最も重要な香気成分のひとつとして(E)-2-Methyl-6-methylene-2,7-octadienalをあげている。
ウメボシ
ウメボシの特徴
梅干は見ただけで生唾がわいてきて、食欲を刺激するのはなぜでしょう。これほどご飯に合うものもありません。香りと酸味塩味が脳へ刷り込まれ、分泌を促していると思われます。調味梅干と表記される、しそ梅・昆布梅・かつお梅・はちみつ梅など、日本人は梅干好きと思いませんか
ウメボシの香気成分
石田らは、完熟果実とそれを加工した梅干の水蒸気蒸留による精油の比較を行っている。梅干は酢酸が量的に多くその他Benzaldehyde、Benzyl alcoholをあげている。
一方、中原らはヘッドスペース法によるトップノートの香気成分を分析し19物質を重要成分とした。酪酸、β-ionone、酢酸がトップノートの特徴的な香りに関与し、1-octen-3-olとvitispiraneもまた重要な役割を果たしているとしている。
エゴマ
エゴマの産地
日本エゴマの会調べによる2006年の全国エゴマ栽培面積トップスリーは、1位が福島県、2位が宮城県、3位が岩手県となっています。
エゴマ栽培|みんなの農業広場
エゴマの特徴
エゴマは種から搾油する目的の利用が多かったのですが、近年、健康志向の高まりから見直され、各地で栽培が広まってきました。
それとともに調理法もいろいろ工夫がなされさまざまな利用が行われているようです。
エゴマの香気成分
シソの精油は、主たる成分で型に分けることができるそうです。モノテルペン系ですと7タイプあります。
エゴマは型で分けると、PP(phenylpropanoid)型、PL(perillene)型、PK(perillaketone)型などが含まれ、PK型の場合、egomaketone、perillaketone、isoegomaketoneが成分として得られるようです。
なお、上記の紫蘇はPA型(Perillaldehyde)となっています。
PRODUCTIONミツバ、フキ、シュンギク
今回は、わりと苦味のある成分を持つミツバ、フキ、シュンギクをとりあげてみます。
ミツバは日本原産のセリ科多年草で日陰の湿地に自生しています。江戸時代から栽培が始まり、香味野菜として日本料理にいろいろ取り入られました。平成20年の収穫量は17,500tで、千葉県・愛知県・茨城県の3県で全国の約半数を占めています。
フキも日本原産で、キク科多年草で全国の野山に自生しています。透き通った淡緑色の葉柄は独特の香りと苦味を持った春の野菜です。栽培品種は愛知早生・水ブキ・秋田ブキなどで、平成20年の収穫量は15,500tで、愛知県で4割を占め、ついで群馬県が15%となっています。
シュンギクは地中海原産のキク科キク属の植物。欧州ではもっぱら観賞用で、日本・中国・東南アジアで野菜として食している。室町時代に渡来。平成20年の収穫量は38,800tで千葉県・大阪府・茨城県・群馬県の4府県で全国の約4割を占めています。
伝統食、伝統文化・風習
【蕗】
ミツバ
ミツバの特徴
三つ葉は、ほうれん草(全国の収穫量292,700t/2009年)に匹敵するほどのビタミンAを含み、カルシウムやカリウム、鉄といったミネラルも豊富です。特有な香りを有しますがもっと食べられていいはずです。
香菜(シャンツァイ)やセロリに代表されるようにセリ科植物は、独特の香りが敬遠されるのか好き嫌いがはっきりしているようです。
ミツバの香気成分
クリプトテーネン(cryptotaenene)、ミツバエン(mitsubaene)が主成分とする記述がみられることがありますが、それらの物質は現在では否定的です。
β-ミルセン、β-ピネンの混合物が前者とされ、三つ葉の特徴的な香気を形成しているとされています。
岡村らによればキリミツバ・根ミツバの主要成分は、α-selinene、β-selineneで、イトミツバではgermacren D、α-selineneであったとしています。
フキ
フキの特徴
野生の蕗は、アクが強く、香りも苦味もきつい。フキよりも、フキノトウを思い浮かべる人が多いと思いますが、早春に葉に先立って根茎から花茎を出し花をつけます。
花茎の若いものが、ほろ苦さもあって、てんぷら、蕗味噌などとして食用されています。
フキの香気成分
伊藤らはフキのキー成分として、1-Nonen-3-olをあげている。
また栗原らはふきのとうの精油成分を分析し1-noneneが主要成分と報じている。Fukinoneと呼ばれるセスキテルペンなども同定した。
シュンギク
シュンギクの産地
シュンギクの特徴
独特の香りが強い春菊の特徴としてはカロテンが豊富なところです。
他に含まれている成分としては、食物繊維やビタミンB1やB2、C、Eなどのビタミン、カルシウム、鉄、カリウムなどのミネラルもバランスよく含まれます。
シュンギクの香気成分
Flaminiは、イタリアにおけるシュンギクを分析し、葉の精油成分では、その主要成分を(Z)-ocimene、myrcene、(E)-ocimeneと報告している。一方、固相マイクロ抽出法による分析も行っており、その結果について、(Z)-ocimeneが主成分であるものの、(E,E)-α-farnesene、germacrene D、(E)-ocimene、(E)-β-farneseneなどの成分が続き、別なプロフィールを示すと述べている。
花(マーガレット)の花粉の分析では、perilla aldehyde、cis-chrysanthenyl acetate、camphorが主な成分であるとしている。
PRODUCTIONワサビ、ショウガ、ミョウガ
これまで、酸味のあるものと香り、苦味のあるものと香りについて触れてきました。
今回は、独特の辛味のあるものを集めてみました。
ところで、基本五味には辛味が入っていません。辛味だけは痛覚や温度感覚を刺激する化学物質によって引き起こされる物理的刺激なのです。辛味成分には揮発性のものと不揮発性のものがあります。前者は、清涼感を伴ない舌や鼻へのツーンとした刺激(辛味)を感じるものの、すぐに辛味を感じなくなってしまいます。後者は逆に辛味を遅く感じいつまでも舌に痺れを残す感覚をもたらします。ワサビは前者、ショウガやサンショウは後者といわれています。
ワサビは、アブラナ科の多年生水生草木で、日本原産の植物です。平成20年のワサビの生産量は約3千740トンで、主な産地は水ワサビ(沢ワサビ)の根茎、葉ワサビ(葉柄)ともに長野県・静岡県で、畑ワサビの根茎が鳥取・島根・山口、葉ワサビが岩手・静岡です。
ショウガはショウガ科の多年草で亜熱帯アジア原産。香気・辛味ともに非常に強い。平成20年の収穫量は4万9,800トン。都道府県別では高知県が42%を占め、次いで熊本県が13%となっています。
ミョウガはショウガ科の多年草で、野菜として栽培しているのは日本だけです。地下茎から出る花穂を花ミョウガ、若い茎を光を当てずに栽培したものをミョウガタケと呼んでいます。平成18年の花ミョウガの収穫量は5,969トンで地域別にみると高知がダントツで75%を占めています。
ワサビの産地
ワサビの特徴
日本原産のワサビは、日本発の辛味成分で英語にもなっていますが、国内のワサビ(根茎)の生産額の低迷が続いているのはさびしい限りです。ワサビは元々陸生で、冷涼で湿地が多い土地を好みます。
また、環境に非常に敏感な作物で、大量生産が難しいのが現実です。ワサビは消臭、抗菌といった作用を持ちますがそれ以外にもさまざまなことがわかってきています。心強い限りです。
ミツバの香気成分
kumagaiらは、畑ワサビの精油分析を行い、13種類のイソチオシアン酸エステル、4種類のニトリルと5種類のアルコールおよび1種のアルデヒドを報告している。
亀岡らは、花ワサビヘッドスペース成分から、主要成分は6-、7-、8-methylthioalkylnitrileとallyl isothiocyanate、propyl isothiocyanate, 6-methylthiohexylisothiocyanateであったと報じている。また、Etohらは、水ワサビエーテル抽出物からイソチオシアン酸エステル類を中心とした14成分を同定している。
畑ワサビおよび水ワサビともに、メイン成分はallyl thiocyanateであった。一方、花ワサビでは、7-methylthioheptano nitrileが主成分であった。
ショウガ
ショウガの特徴
世界でも生産は盛んで、東南アジア・アフリカ・中米などで行われています。生姜の品種は根茎の大きさから、大生姜、中生姜、小生姜に大別されています。香辛料、食材、生薬としての利用が盛んです。
辛味成分としてはジンゲロールが含まれ、加熱調理中にショウガオール・ジンゲロンが生じるとされています。
ショウガの香気成分
生姜は世界各地で栽培されているがその香味の特徴は一致しない。精油成分の組成比もそれぞれに特徴的である。
一般的に、Geranial,Neralが生姜のレモン様香気に寄与しているとされているが、国産の新ショウガについて香気寄与成分を探った研究では、Linalool, Geraniol, Geranial, Neral, Borneol, Isoborneol, 1,8-Cineol, 4-Terpineol, Geranyl acetate, 2-Pinen-5-ol, (E)-2-Octenal, (E)-2-Decenal, (E)-2-Dodecenalの名前が上がっている。
ミョウガ
ミョウガの産地
私たちが普段食べているミョウガは、花のツボミの部分です。開花前のツボミが3~12枚程度あります。夏には小さなツボミをつけ、秋には太く身がしまったものが出回ります。2回の収穫期があります。夏には、ぴったりの香りと味を持ったミョウガはそのまま生で薬味として十分存在感あります。秋ミョウガのほうが大きさ・香りともに良いといわれています。
ミョウガは冥加にも通じることから尊ばれており、「抱茗荷紋」とよばれる家紋があり、日本十大家紋のひとつになっています。
ミョウガの香気成分
高村らは、ミョウガ(Zingiber mioga Rosc.)の香気寄与成分をcis-3-hexenol,isopicocamphoneなどと推測し、前者は酵素的に生成されると報じた。
また、黒林らは、2-isopropyl-3-methoxypyrazine、2-sec-butyl-3-methoxypyrazine,2-isobutyl-3-methoxypyrazineが、茗荷のgreenでearthyな香りを形作っていると考えられるとしている。