PR委員会選「日本香料遺産」試案

 世の中あちこち「遺産」ブームで湧いています。香料産業界も潮流に乗って振り返ってみるのも一興でしょうか。
 我が国の香料産業の礎が築かれたのは明治以降かと思われます。優に140年ほどの歴史を積み重ねてきたことになります。近代化の中で香料産業に寄与してきた事案(歴史的・文化的な遺産として)を掘り起し、その価値に光を当て、社会に発信してみたいと思います。

歴史文化遺産

 香料産業が開花するまでの歴史的に見て重要な遺産・事案・事象

歴史文化遺産
タイトル 推 薦 理 由
蘭奢待 正倉院宝物。全てにおいて超弩級の稀有な一品。天下第一の伽羅香である。重量11.6kg、全長156cm、最大径43cm。1200年もの間香気が色あせないという。また、名だたる時の権力者を魅了し、その身を削り取られている。数奇な運命も魅力。直近のお披露目は2011年の正倉院展。その前が1997年。次回いつその姿が見られるかわからない、正に香木の至宝である。
香道 公家や武士により始まった香遊びは、やがて多くの人に愉しまれれて香道が確立。茶道とも繋がり、芸道として日本独特の文化に昇華した。さらに香道具も作られるようになる。香道具は高砂コレクションに見ることが出来る。香道こそはまさに世界に誇るクールジャパンである。
薫物とおもてなし文化 香を薫きしめて手紙に添えて想いを伝える文香。部屋や衣装に香を焚きしめる空薫(そらだき)。日本古来から伝わる奥ゆかしくも儚い繊細なおもてなし文化はクールだ。
香り風景百選 平成13年に環境省が選定。すでに14年が経過し地名も変更になった場所も多い。地域に根差した香り文化を風化させず後世に引き継ぎたい。また、新たなる香り風景に出逢いたい。そんな願いを込めて推挙する次第である。

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産業記憶遺産

 香料産業が開花する過程において貢献の大きかった遺産・事案・事象

産業記憶遺産
タイトル 推 薦 理 由
平野一貫編著「香粧品製造法」 香料産業の黎明期に最初に著された香料の教科書。香料業界の指針であり記念碑である。国立国会図書館にて近代デジタルライブラリーで見て取れる。
ハッカ産業 経済産業省HPに「北海道における近代農業、食品加工業などの発展の歩みを物語る近代化産業遺産群」として北見周辺の薄荷栽培・精油業が取り上げられている。『最盛期の1939年頃には、作付面積2万ha、世界市場の70%を占めるほどの一大輸出産業へと成長し、この時期の北海道経済を支える産業となった。』と記している。日本の近代化の一役を担った民間による精油産業の隆盛を素直に称えたい。遺産リストには北見ハッカ記念館や滝上町郷土館所蔵の薄荷蒸留機械群がリストされている。
『番外編(海外)』
樟脳産業 樟脳が専売品であったことはもっと知られてよい。また、樟脳によって多くの企業が勃興し現在の大企業となって活躍している様はもっと知られてもよい。残念ながら国内には産業遺産と呼べる端的なものが見られないようだ。台湾に、樟脳工場遺産跡が見て取ることが出来る。国立台湾博物館南門園区

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香り(記憶)遺産

 香料が添加された場合、香料そのものはその製品における一つの原料(脇役)にすぎませんが、十分に主役となりうる場合もあろうかと思います。製品を語る上で、香料がインパクトを与えたと思われるものについて語ってみたいと思います。

フレーバー部門

 香料を着香する目的には、大きく分けて3つあげられる。
①新規着香(香りがほとんどしない食品素材への風味づけ)
②補香(食品の製造工程時における風味の減少や消失等を補う)
③風味矯正(食品素材由来や製造工程時に発生する好ましくない風味の矯正)

着香目的 タイトル 推 薦 理 由
①新規着香 「ジュースの素」の香り エノケンのCMで有名なジュースの素は、昭和33年の発売。この時期にスプレイドライによる粉末香料が花開いた。その象徴と言える。水に溶かすと発香する特性で、長時間加熱による他の乾燥方式に比べ香料の安定性に優れる。
①新規着香 ラムネ・サイダーの香り 甘味と酸味を加えた炭酸水と言ってしまえばおしまいですが、明治以降長きにわたって親しまれた風味は特筆ものです。外国ブランドが参入してきた時期(昭和中期)を考えれば、清涼感を求める日本が独自に培ってきた炭酸飲料といえましょうか。
①新規着香 グレープフルーツの香り 国産スポーツドリンクの先駆けとなった「ポカリスエット」は無果汁表記ながら果汁が使用されています。1980年の発売です。グレープフルーツ(GF)果汁が使用されていますが、GFが本格的に輸入されるようになったのは1970年代です。グレープフルーツの風味を知らしめた一品として記憶に残るものと言えましょう。
③風味矯正 栄養ドリンク剤の香り 薬臭さは免れない商品ですが、上手にマスキングしており嗜好性を上げることに成功しています。ちなみにリポビタンDはパイン味だそうです。。
①新規着香 かき氷シロップの香り かき氷シロップフレーバーのなんと種類の多いことでしょう。変幻自在。まさにフレーバー屋の腕の見せ所。いろいろ試してみてください。
②補香 ブルーベリーの香り 1982年にブルーベリーガムが発売されました。ブルーベリーの栽培が本格化したのは80年代後半と言われていますので先鞭をつけた格好です。ブルーベリーの香りを知らしめた点では意義あるものと言えます。
①新規着香 アロエの香り アロエには青臭い香りがあるもののこれと言って特徴的なものはありません。そこに「アロエの香り」というブランドを作ってしまった企画力に脱帽です。このように今まで世の中になかった食品が生み出されるときフレーバーが創作されて大活躍することがままあります。
①新規着香 カニ風味かまぼこの香り イタリアでは「スリミ」といって大ブームだそうです。色・形・風味とも世界発信のものといえましょう。「香り遺産」として特筆ものです。
③風味矯正 缶コーヒー コーヒーほど厄介なものはありません。硬度、酸度、熱などの影響を受けやすく、揮発性が高い。豆の選択や嗜好などを考え合わせると気が遠くなるほどの難しさを感じてしまいます。引きたて、淹れ立ての本来のコーヒーの香りに近づける努力の賜物である。

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フレグランス部門

タイトル 推 薦 理 由
ホワイト石鹸の香り

白色石鹸へのチャレンジと成功。香料には変調剤を加えることで匂いが引き締まってくるが、その素材はややもすると着色するきらいがある。白色生地に対する継時変化で焼けづらい香料の開発に対して推薦する理由である。
また、LUX、CAMEYといった香水調の香りとは一線を画した、日本的な嗜好にあった香りが登場。

ジャスミン入浴剤の香り

無機塩類入浴剤は昭和初期から発売されていたそうです。1960年ごろから風呂付き住宅が飛躍的に増えたおかげで入浴剤は浸透していきます。
発売当初から「ジャスミン」の名が冠せられていたようです(復刻版に名がある)。この異国の花の認知はかなり低かったと思いますが、入浴剤のおかげで市民権を得ることが出来ました。
また、この入浴剤のジャスミンの香りには配合の妙があると思われることから推薦する次第です。

液体整髪料の香り

それまで油性の固形整髪料(ポマードなど)しかなかった時代に画期的に登場した液体整髪料。
ポマードなどはラベンダー臭がキツイ。そんな時代に、液体整髪料の香りはメンズフレグランスの幕開けである。
エポックメーキングなインパクトにより推薦する理由である。

芳香剤(キンモクセイ)の香り 金木犀の香りを嗅ぐとややもするとトイレの香りと思われることがあった。認知度抜群である。芳香剤ひいては香料の名を高らしめた功績は称えたい。
ガス付臭剤 都市ガスである天然ガスには臭いは元々ない。ガス事業法によりガスとすぐにわかる臭いをつけることが基準で決められている。香料会社で製造することがある。芳香を発しない香料(ガス付臭剤)ということで記憶に留めるべきと考える。
ワシントン条約により入手が困難な香料原料 動物香料(麝香、霊猫香、海狸香、竜涎香)や植物香料(白檀など)は化学的合成品で代替されるようになり天然の持つ香りが忘れ去られようとしている。

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